1970年大阪万博の軌跡

だいぶ昔の話。

1月29日、東京に出張したついでに、国立科学博物館で開かれた特別展「1970年大阪万博の軌跡 2009 in Tokyo」を訪ねた。


万博は不思議なイベントだ。「人類の進歩と調和」をテーマとする同博覧会は、科学技術のもたらす明るい未来が極彩色で描かれ、美しいコンパニオンたちが笑顔で観客を迎える一方で、その中心には縄文と生物進化の暗い土俗的な世界からにょっきりと「太陽の塔」が生え出し、原爆がもたらした災禍とその鎮魂から再生を描く巨大タペストリー「かなしみの塔」と「よろこびの塔」が静かに広げられている。


また、リニアモーターカーや携帯電話、未来の家電など1970年代から想像された未来がさまざまな方法で展示されていた一方で、ハイテクの文楽人形ロボットが踊り狂う(笑)。


科学技術の希望と不安が素直に提起され、土俗的な暗い象徴がそびえたつ怪異なイベントに、これほどまでに多くの人びとが集まったことは、今から考えると驚異である(会期中の観客数は6400万人)。


不勉強なオレは、今回のイベントでこの二つの巨大タペストリーのことを知った。西陣織の業者が織りあげ、当時の日本館に飾られていたという。原爆という破壊にも、発電という生活の基盤を支える力としても利用される原子力の巨大な力が、おそらくは科学技術の両義的イメージのもとだったのかもしれない。国立科学博物館の観客がまばらだったこともあって、余計にその巨大さが際立った。


科学博物館の地下に入っていくと、特別展の入口では、日本館のコンパニオンの衣装を身につけたマネキンの大群がまず観客を迎えてくれる。ポスターなどのパネル展示が続き、奥に入っていくと、先ほどの二つのタペストリー、「かなしみの塔」と「よろこびの塔」が両側に展示された巨大な空間が広がっている。このタペストリーは、特別展に合わせて修復されたものだという。



観客を迎えるコンパニオンの大群。



EXPO70のポスターその1。



EXPO70のポスターその2。



EXPO70のポスターその3。



かなしみの塔。



よろこびの塔。


この空間を通り抜けると、万博の情景が描き出されたパネルが展示された廊下に出る。この廊下のパネルには、太陽の塔や会場全景がとらえられている。このパネルの中には夜の万博会場で目から怪光線を発する太陽の塔も描かれる。この塔がおそらくどれだけ異様に映ったかがまざまざと想像できる。いや、すごいですよ、圧倒的な迫力というか、まるで異世界からの巨大な使者のようです、太陽の塔は。


この廊下に続く次の会場では、さまざまなパビリオンの模型や1970年から構想された未来の世界をいろどる品々が展示されている。リニアモーターカーや未来の家電、携帯電話など、現在実現したもの、これから実現するかもしれないものが並ぶ。たぶん全身が洗える洗濯機(三洋電機製)は、将来も実現しないだろうなあ。コンパニオンの衣装もそうだが、1970年代のデザインが回帰している現在、驚くほどモダンに見えるところがミソだろう。もちろん(?)踊り狂う文楽人形ロボットもこのゾーンにおかれている。



リニアモーターカーの模型。かなり精密で、天窓から中を除くと内装もじっくり見れる。



未来の家電。三洋電機の人間洗濯機(笑)。現実には介護補助製品として、肢体不自由者の入浴介助を支援する機械が生まれている。



パビリオン。えーと、何館だったっけ?記録をなくしちゃいました。ご存知の方、教えてください(笑)



文楽人形ロボット。動きがきびきびしすぎている(つまり、ぎこちない)ところがロボットっぽい。


「月の石」もこの会場に展示されていて、当時はこの石を見て宇宙と宇宙開発に乗り出した人類の飛躍に思いをはせたりしたのだろうか・・・と思った。現在見ると、単に白っぽいごくごく小さなゴミみたいな小石なんだけどね(笑)。



月の石。パッケージがなかったら、地上のゴミと混ざってしまいそう(^^;


さらにこの会場から下に降りていくと、今度は太陽の塔の内部を模したフロアに到達する。生物進化を模した太陽の塔の内部世界で遊ぶ子供たちは、やはりシュール。暗い回廊を通り抜けて、太陽へと向かう生物の進化は、単純な進歩史観のようにも見えるし、人類の未来への期待・願いが込められた象徴的世界を描いたもののようにも見える。お祭り広場からにょっきりと突き出た太陽の塔の精密なジオラマ模型も展示され、観客たちは物珍しそうに眺めていた(もちろん、オレも物珍しそうに眺めて、写真を撮りまくった)。



生物進化を描く太陽の塔の内部の模型。



お祭り広場からにょっきりと生えた太陽の塔



太陽の塔の後ろには黒い太陽。


同じく大阪万博に出品された岡本太郎デザインの手の椅子や、ソ連の建築家アレクセイ・グトノフの未来都市イメージを模型にした渦巻都市も展示されていた。ちんまりとしたミュージアムショップコーナーの隣には、タイアップで「ともだちの塔」もありました。



岡本太郎の手の椅子。グラスの底には顔があったけど、おしりの下には手がある(笑)



アレクセイ・グドノフの未来都市。螺旋と未来都市というのは、レトロなドーナツ型の宇宙ステーションイメージと同じように、一種のステレオタイプ。こうしたイメージには、何か起源があるのだろうか?


写真撮り放題という珍しい展覧会でいろいろと見て回って結構おなかいっぱいになったものの、図録がなかったので、脳味噌内部はとっちらかったままです。



同日は、国立博物館で開かれた「未来をひらく福沢諭吉展 創立150周年記念」にも行きましたが、こちらは福沢諭吉がよき家庭人であり、物理的にも巨人だったことがわかったのが収穫。写真を見ると、余人に抜きんでています。